MC MABON『KERRDD DANT』 Comments or questions about the website: info@macaronirecords.com
ジョン・ケイル、バッドフィンガー、メリー・ホプキンなどから始まり、ジ・アラーム、デイヴ・エドモンズ、ヤング・マーブル・ジャイヤンツ、グリーン・ガートサイド(スクリッティ・ポリッティ)、マニック・ストリート・プリーチャーズ、ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキ(以下GMZ)、スーパー・ファーリー・アニマルズ(以下SFA)、ステレオフォニックス、ロストプロフェッツ・・・と、比較的ポピュラーなウェールズ出身の優れたバンド及びミュージシャンをざっと挙げてみた。もちろん、人それぞれ、他にも知っているとか全く知らないなどとか個人差はあるとは思うが、今日からその中に「MCマボン」という名前を是が非でも加えてほしいと思う。
2000年に彗星のごとく現れたMCマボン。本名はグリフ・メレディスという。グリフと言えば、そう、今や名実ともに世界規模で認められてきたSFAのヴォーカル/ギター=グリフ・リースと同じ名だ。まぁ、グリフという名は地元でもポピュラーな名前なので同名というのも別段大それたことではないのだが、実はこのMC マボン、何を隠そうそのグリフ・リースの従兄弟にあたるのだ。グリフという同じ名を持つ仲の良い従兄弟同士、とMCマボンの存在を少しでも多くの方に知ってもらいたいと思う一つの大きなツールとして、取りあえず「グリフ・リースの従兄弟!」と強調してみたりする。でも、正直な話、実はそんなことはどうでもいいなんて思ったりしている自分もいたりする。それはずっと前から彼の音楽に触れていて、彼のスゴさ、素晴らしさを知っているからである。その実力は地元でもきちんと証明されているしね。地元の国営放送局BBC Radio Wales主催『Roc A Phop(Rock and Pop )』の04年ベスト・アーティスト部門を彼は受賞していることがなによりもその証拠だ。それほどハイレベルな楽曲を提供する素晴らしい才能を持つミュージシャンであるからこそ、ウェールズとUKの一部だけでしか聴かれていないなんてもったいない、MCマボンの音楽をここ日本でも流通させるべきだと強く思ったのである(と偉そうな口を叩いておりますが、帯やリリース告知などで「グリフ・リースの従兄弟」という肩書きを最大限に活用しているどうしようもないレーベル・オーナーです、僕は)。まぁ、そんなことは置いといて、まずはMC マボンについて簡単に紹介しておこう。
今年で30歳を迎えたMC マボン。ソロとしての活動は2000年からなのだが、それ以前はG-MANという名で90年代のウェルシュ・ヒップホップ・シーンを扇動したTystionのメンバーとして活動していた。Tystionとはウェールズ南西部Carmarthen出身のMC SleifarことSteffen Cravosが92年に結成したウェルシュ・ヒップホップ・グループだ。今日でも盟友であるSteffen Crovosとともに二代巨頭としてウェールズの音楽シーンを引率していた。Steffen CravosはGMZのインディー時代のマネージャーでもあり、ウェルシュ・カルチャーの影の立役者でもある。G-MANが96年にラッパーとしてTystionに加わったことで、80年代以降、低迷していたウェルシュ・ヒップホップ・シーンが急激に活気づくきっかけともなった。97年にデビューアルバム『Rhaid I Rhywbeth Ddigwydd』をリリースし、その後、SFAやGZM、カタトニアなどが所属していたことで地元のレーベルの中で最も名の知れたインディ・レーベル=アンクストから2枚のアルバムをリリースするなどウェールズ国内での支持を拡大させ、DJ Jaffa(80年代中頃、イングランドのブリストルでレゲエやヒップホップを プレイしていたDJ集団ワイルド・バンチ(マッシヴ・アタックの前身)がオーガナイズしていたパーティーやクラブナイトの常連DJとして名を列ねていたカーディフ出身のDJ)もクルーとして加わり、ウェルシュ・ヒップホップ・シーンの核弾頭となっていった。毎年本国で行われている野外フェス「コンパスポイント」では、宣伝案内文が英語表記のみでしか書かれていなかったことに憤慨し、出演をボイコットするというエピソードもある。政治的な言動が多々目立ったことでNMEなどのUK国内の音楽誌がこぞって彼らを「ザ・ウェルシュ・パブリック・エネミー」と呼んでいた。99年に彼が同グループを電撃脱退した時は、彼らを支持する多くの地元ファンはこの出来事に深く失望したという。そして翌年にはG-MANという名からMC マボンに改名し、ファースト・アルバム『Mr.Blaidd』を引っ提げてソロ・デビューを果たす。それから4年、ようやくソロ・ミュージシャンとして国内でのベスト・アーティストという称号を得ることができた。そこでこれまで彼に付きまとっていたTysitonのイメージを払拭し、ソロへの転向が間違ってはいなかったという証明となったということだ。
15曲入り1stアルバム『Mr.Blaidd』(ANKST/ANKSTCD092)はアンクストから2000年にリリース。この頃、彼についたニックネームは「ウェルシュ・オジー・オズボーン」。しかし、この作品を聴く限りではヒップホップ、ファンク、ブレイクビーツ、サザン・ロック的な要素が強く、決してオジー・オズボーンのようなHR/HM色ではないが、オルタナティヴ・ロックのカウンター的な存在を期待されて、そう呼ばれていたのかもしれない。
そして翌年に同じくアンクストからリリースされた12曲入り2ndアルバム『The Hunt For Meaning』(ANKST/ANKSTCD098)ではマスタリングにSFAでお馴染みのゴーウェル・オーウェン、エンジニアリングにはマニックスでお馴染みのグレッグ・ヘイヴァーとウェールズの奇才ミュージシャン=David Wrehchも加わり、ケルト・ミュージック、ブリティッシュ・フォークからのルーツを匂わせる奥床しきサウンドがアルバム全体を包み込んだ大胆な変化に富んだ作品。UKチャイニーズ・フェスティヴァル・アンサンブルによる月琴、琵琶、古箏、二胡等の演奏と、あくまでも彼のサウンドの根本となっているヒップホップ、ブレイクビーツとの異色の絡み合いが聴きどころもあってとにかく面白い。
3rdアルバム『Dyddiadur Alci Hypocondriac』は作家でもある彼の本のタイトル名から来ているアルバムであり、トラックは1曲のみでその1曲が60分もある大作だ。そして、軽快なリズムを刻むスパニッシュ・ギター&フラメンコから幕を開ける02年にアンクストからリリースされた4rdアルバム『Nia Non』(ANKST/ANKSTCD104)。サウンド面からも大変影響を受けているSFAのグリフも絶賛の好作品。元GZMのジョン・ローレンスほか、若手No.1の実力を誇るウェルシュ・ラッパー=MC Saizmundo、ポストSFA的な次世代をリードする超新星=Pep Le PewのDyl Meiなどが参加。この作品はSFAのウェールズ語アルバム『ムーング』に対するMC マボンからの回答と言える。ポップスのセンスや特にフォーク・ソング時のヴォーカル・スタイルなどはまるでSFAのグリフを彷佛とさせる。若干、荒削りな印象があった1st、2ndアルバムとは打って変わって、サウンド・プロダクションや演奏能力の向上が見られるのもこの作品での大きなポイントだ。
10日間という短期間で制作された5thアルバム『Cleishe』(RaspCD019L)は地元老舗レーベル=Fflachからのリリース。短期間で制作されたにも関わらず、まるでコンピレーション・アルバムかと思うほど一曲一曲が全く異なる多彩と多才を合わせ持った作品だ。そして「嫌悪・強欲・冷淡・愚行」と言う単語でサブタイトルが付けられそうな6thアルバム『Pryna Hwn Rwan Cyn I'r Boi Sgynshio Clustie Ddod Rownd. Cont』(BOOBYTRAP/BOOBREC004CD)はBBCのSession In WalesのDJを担当しているHuw Stephensがオーナーを務めるレーベル=ブービートラップより03年にリリース。ロックンロールという手法を用いて人間の錯乱する精神を物語的に表現した作品である。彼がこれほどまで完成度の高いメロディアスな曲を書けるなんて全く予想もしておらず、それはこれを初めて聴いた時の最も嬉しい誤算だったと言えるほど、美しいメロディーが印象的な作品だ。そしてSFAのグリフが参加しているんじゃないかと思えるくらい彼のヴォーカル・スタイルが似通っているのも印象的だ。まぁ、血縁なのですので。その他、UKのインディー専門レーベルとして有名なFierce Pandaのコンピレーション・アルバム 『Vet Sounds』(Fierce Panda/NING108CD)ではフューチャリングとして元ブー・ラドリーズのマーティン・カー扮するBravecaptainの曲「The Badman Rules forever」に参加したり、地元インディー・レーベル=Dockrad Recordsのコンピレーション・アルバム『Dim Apathi』(Dockrad cd002)ではアルバム未収録曲「Ooowahha…」を提供。そしてZabrinski、Pep Le Pew、MC Saizmundo、Baswcaといった若手ミュージシャンのアルバムに参加するなど、現地のミュージシャンからも一目を置かれる存在となっている。
そして今作はMC マボンの7作目の最新作アルバムとなる。「今までの作品の中で、一番良い出来だね」と現地のレーベル・オーナーが言うように本作は過去最高のアルバム、MC マボンの集大成とも言うべき作品であるだろう。新曲、過去の音源のリミックス曲、カヴァー曲が収録されているということもあり、初めて彼のサウンドを耳にする方にも最適なアルバムとも言える。本作では『Nia Non』でも参加していたMC Saizmundo、Pep Le PewのDylMei、Thestyn Jones、そしてウェールズの首都カーディフを拠点に活動しているRocket GoldstarのSion Organ、Gaz Williamsなどが参加。プロデューサーはMC マボンの全アルバムに関わっているFrank Naughton。ドラムのイントロとMC Saizmundoの底辺から響き渡る鋭いリリックで幕を開ける@。楽曲こそ「ポップス」としてまとまっているが、微妙にズレのある独特のひねくれアンサンブルはもはやMC マボンの商標登録と言えるだろう。スティール・パンやスパニッシュ・ギターが軽快に鳴り響き、アルバート・キングさながら(しかもオリジナリティに溢れる)のプレイを聴かせるA。地元ではウェルシュ・レゲエ/ダブ・ミュージシャンの英雄として知られるGeraint Jermanとウェルシュ・パンク・バンドのパイオニアであるLlygod Ffyrnigを組み合わせたかのような非常に泥臭く濃厚なウェルシュばりガレージ・ロックンロールを魅せるB。辺境の地ウェールズから届けられた慕情を感じさせるマイナー・キーなアコースティック・サウンドのC。サイケデリックとカオスが交錯するインストゥルメンタル・ミュージックのD。ハーパーズ・ビザールっぽい音遊びの捻れ具合がSFAのグリフにも似ていると言えそうなソフト・ロックなEは5thアルバムのに収録されているリミックス・ヴァージョン。スコット・ウォーカーみたいな、ケヴィン・エアーズみたいなカンタベリー系フォーク・バラッドとも言うべきFとG。カントリー・ロックやL.A.スワンプなどの泥臭いサウンドとウェルシュ・トラッド・ミュージックが見事に重なりあったH。GMZにも通ずるオーガニックでドリーミーなIは1stアルバムに収録されているラストナンバーのリミックス・ヴァージョン。ヒップホップとバラッドが絶妙に溶け合い絡み合うJ。で、ラストを飾るKはEdward H. Dafisという知る人ぞ知る70年代に活動していたウェールズのプログレッシヴ・バンド(と言われているようだが、実際に聴いてみるとマンやジ・アラームに近い)のカヴァー曲。前身バンドは60年代後期〜70年代初期まで活動していたウェールズ語バンドのパイオニア=Tebot Piws。英国ロックの深すぎる森に迷い込んでいるリスナーにとっては超レアな存在であろう。その音源が彼の手によって強烈なグルーヴとなって蘇る。
そして本作のアルバム・タイトルである『ケルズ・ダント』という名称だが、これはカインク(ハープがある一つの曲を弾くこと)とアラウ(歌手または合唱が同時に別な曲を歌うこと)を合わせた楽曲形式に基づき(これをゴソディアドと呼ぶ)、ハーモニー等の厳しいルールに沿って作られているというウェールズ独特の音楽の呼称である。そのタイトル名の通り、アナーキーで変質的なストリングス・アレンジや捻くれたサウンド・エフェクトなど彼独特のスタイルが成立している。ポップ・アート的な意匠を施したサウンドがあり、そして根本には古くから地元に根付くウェルシュ・トラッドや賛美歌といったスタンダードでポピュラーなサウンドを取り上げ、古き良き時代のノスタルジックな香りを現代的手法を用いて表現した“ウェールズ再発見”的な要素が見られる。そんな彼を「ウェルシュ・ヴァン・ダイク・パークス」なんて呼んでみたくなる。彼の音楽は良質なウェールズ音楽への道しるべになる。彼の音楽を聴いているとEdward H. DafisやMeic Stevens、Datblyguを始め、Y Blew、Rhiannon Tomos、Atgyfodiad、Crys、Dr Hywel Ffiaidd、Derec Brown、Y Tornedos、Dewi Morris、Sidam、Bran、Geraint Jarman、Ail Symudiad、Clustiau Cwn、Huw Jones、Llygod Ffyrnig、Rocyn、Yr Anhrefnといった60年代から80年代のウェルシュ・バンド及びミュージシャンの名前を次々と引き出したくなってしまう。本作と同日にリリースされるSFAのグリフ・リースのソロ・アルバム『アル・アタル・ゲンヘッドライス』(トイズファクトリー/TFCK-87377)からもそんな先代のミュージシャンが続々と顔を出すような、そんな彼のルーツを辿ることができる素晴らしい作品だ。やっぱ従兄弟同士、同じ血筋を引いているんだなぁと思う。そのSFAのグリフとはまた一味違ったMC マボンという豊かな才能を耳でしっかりと感じ取ってもらえると幸いだ。
スーパー・ファーリー・アニマルズ(以下SFA)のフロントマンであり、ヴォーカル&ギターのグリフ・リースの従兄弟! 実はもう通算で4作リリースしているがんばり屋でちょっぴりやんちゃな30歳。本名グリフ・メレディス。99年まで所属していたウェルシュ・ヒップホップ軍団Tystionで培ったヒップホップをベースにファンク、パンク、エレクトロニカ、ブレイクビーツ、フォーク・ソング、ケルト民謡、フラメンコ、サルサ、アルゼンチン・タンゴ、中国民謡(二胡などの中国民族楽器も登場!)と、とにかく小技、大技、引き出しが多いミュージシャンです。立ち位置は若干違えど、このあたりのセンスはSFAに近いですね。しかも、そのどれもがポップスとして成り立っているサウンドなのだから、もう言うことありません! ミラクル・ポップスを作り上げるセンスは従兄弟にまで及ぶんですね。
¥2,300(tax in)